糖蜜は泌乳牛にとって必要か?

配合飼料に添加される糖蜜は配合原料の中では安価であり、さらに嗜好性改善によいということで配合原料の中ではなくてはならない存在と言えます。

本TMRセンターでもTMRの嗜好性改善に使われています。

配合飼料工場には糖蜜(液体)の専用タンクがあり、気温が低い時でも添加できるよう加温装置が設置されています。

しかし、嗜好性改善の他に単なるブドウ糖やショ糖とは異なりポリフェノール類や高級アルコール等の機能性成分含量が多い甘藷糖蜜では、抗酸化作用が高いことが知られています。その中に含まれるポリノコサノール(高級アルコールの一種)はコレステロール低下作用等で海外では医薬品として使われている例もあります。

国内ではこれまで糖蜜のルーメンへの影響はほとんど試験、研究されていません。海外ではこれまでの研究機関で実施された給与試験等を整理し、糖蜜のルーメンへの影響や飼料的価値を示した総説が出されています。
(Why Feed a Molasses-Based Liquid Supplement When Corn is Cheap and Milk Price is Low  Stephen M. Emanuele* and Charles J. Sniffen§  *Quality Liquid Feeds §Fencrest, LLC ))

総説の要約(邦文訳)は、以下のとおりです。

・糖蜜主体の液体飼料や糖は乳牛にとって利用されやすいエネルギー源である。給与乾物中にそれらを6~8%組み込むと乾物摂取量、補正乳量、乳蛋白量、乳脂肪量およびNDF消化率が増加する傾向がある。
・ この作用機序はNDFの消化性を高め、ルーメン内微生物叢が変化し、脂肪合成に必要な栄養素量が増加するためと推定される。
・ 糖や糖蜜を給与乾物中の8%以下の給与では飼料用のトウモロコシと同程度の飼料効率となる。
・粗飼料因子量は糖蜜や糖の効果に影響する。給与飼料中のADFが19%以下で粗飼料因子量が少ない時、本飼料を組み込んだ場合、飼料摂取量や乳生産が増加する傾向はない。
・給与飼料中に遊離アミノ酸やペプチドが適切量含まれている場合には、本飼料の効果は高い傾向がある。
・1983年以降に発表された研究報告では本飼料が単に嗜好性を改善するだけでなく、ルーメン微生物の活性や増殖に大きな役割があることが示された。
   

しかし、海外でも食品分野のように上記の機能性成分の乳牛への影響は研究されていません。私はこの微量の機能性成分が含まれると思われるバガス、ケイントップ、サトウキビ(ホルークロップ)などの給与試験に過去携わりましたが、糞が締まる、消化性が悪い割には残しがないなど粗飼料として印象に残るものでした。

さとうきびや糖蜜中の機能成分のルーメンや代謝に与える影響を研究するところが出てくることを望む次第です。

次回は八千穂TMRセンター製造のTMRはいわゆる「フレッシュTMR」であり、密封をしない方式です。その中で水分のある「ビール粕」を敢えて加えています。この「ビール粕」について整理していきたいと思います。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。