回答は、モネンシンやそれと同じような薬理的作用をもつカシューナッツ殻油等では、アシドーシス等の原因となるルーメン中の乳酸生成菌等のグラム陽性菌の他、原虫(プロトゾア)の増殖も抑えられることが知られています。
元々モネンシ等のポリエーテル系イオノフォア剤は、ニワトリ等のコクシジウムの予防、治療薬として開発されたものです。単細胞の生命体である原虫の一種として、ルーメンプロトゾアも同様の代謝からその増殖が抑えられます。
ルーメンプロトゾアはコクシジウムと異なり、シスト(休止期)をもつ生活環はなく、嫌気性の代謝であり、外界での生存は強くはないのですが、生まれた子牛のルーメンへの定着は親牛の唾液等の接触によりルーメンの外から子牛のルーメンへの移行によるものです。
モネンシンはルーメン微生物の内、選択的にグラム陽性菌や原虫の増殖を抑えますが、繊維分解菌等のグラム陰性菌の増殖抑制は少ないようです。
一方、私が研究に従事した「マスタードシード」(アリルイソチオシノレートを含む)は細菌の中で選択的にグラム陰性菌の増殖を抑えます。一般にアリルイソチオシオネートはグラム陰性菌の他、カビや酵母も抑えます。ルーメンには、嫌気性の真菌がいますが、カラシ油でその増殖が抑えられている可能性があります。
しかし、何れの商材もルーメン内のメタンやA/P比(酢酸、プロピオン酸比率)は減少する研究結果が出ており、ルーメン発酵の多様性が窺われます。
モネンシンは、前述のとおり、ルーメンプロトゾアやメタン生成菌の増殖は抑え、繊維分解菌の増殖への影響は少ないとされていますが、一部のプロトゾアは繊維分解酵素を持っており、また繊維分解菌が生成した水素も過剰になれば、その増殖を抑えることが知られており、モネンシン投与よるルーメン発酵の変化は単純ではありません。
このようなことから、私の中ではモネンシンやそれに類する商材は、ルーメンアシドーシスを防ぐには効果的であるが、そのような問題のないルーメン発酵では、繊維の消化率の低下による乳成分や肉質(脂肪酸組成)への影響等も知っておく必要があると捉えています。
冒頭の図は下記の参考データ2)の研究報告の中に出てくる、ルーメン中の水素発生よるルーメン微生物の代謝パターンを示しています。水素が過剰に発生した場合、プロピオン酸が増加ずる、あるいはメタンが増加ずる代謝経路と複数の代謝経路があることを示しています。
(参考データ)
1)「ルーメンプロトゾアに対するモネンシンの作用」(日畜会報,52(3):179~179(1981年))
2)「ルーメン微生物の代謝制御によるメタンの生成の抑制」(日本比較内分泌学会ニュース:2001年2001巻103号p. 103_31-103_38)