牛において、酪酸はルーメン発酵で生成される主要な有機酸の一つであり、また牧草をサイレージ化した際に材料草が高水分、低糖の場合に酪酸菌(クロストリジウム)により酪酸が生成されやすくなります。
腸内の酪酸を増加させるには、酪酸菌のエネルギー源となるオリゴ糖や水溶性食物繊維を増やせばいいことになります。
この酪酸が医学分野では、腸内において免疫のコントロールの一つを担っている「制御型T細胞」を増加させることが明らかになり、注目を浴びる有機酸になりました。
この制御型T細胞は、腸内において、他の免疫細胞がそのサイトカイン等により炎症を強くする働きをコントロールして免疫システムを正常化する働きを担っています1)。
哺乳期の飼料として、市販の代用乳の多くに「オリゴ糖」が添加されています。これにより乳酸菌の他、酪酸菌も増加し、子牛の免疫機能を正常化、高めている要因になっています。
しかし、ルーメンが発達してくる育成牛、あるいは成牛ではオリゴ糖単体を摂取させても分解されず腸内に移行するのは僅かと推測されます。
それではオリゴ糖や水溶性食物繊維が多い牛の飼料にはどんなものがあるでしょう。
代表的なものは、オリゴ糖が多い飼料としては、大豆や「豆腐粕」、水溶性繊維が多いものとしては、過去のブログでも取り上げた「リンゴ粕」、「ミカン皮」、「バナナの皮」等の副産物です。
離乳後のルーメンが未発達でルーメン発酵が弱い子牛において、これらの飼料は腸内に一部オリゴ糖や水溶性繊維が移行し、酪酸菌が増加し酪酸生成が高まると推測されます。
離乳後の子牛の飼料としては、一般に穀類の多い育成配合飼料と乾草、サイレージの組み合わせです。この一部をオリゴ糖や水溶性繊維の多い飼料に置き換えて、下痢等の感染症の低下に繋がらないかをみたいところです。
TMRセンター等では、育成用のTMRの製造は可能であり、その際に本内容を理解いただければ、オリゴ糖や水溶性繊維の多い飼料原料を組み入れてはいかがでしょう。
冒頭の図は、牛を含め哺乳類の一般的な免疫システムを簡単に示したものです。
今回紹介した「制御型T細胞」は、図に示された獲得免疫に関与するT細胞(Tリンパ球)に属し、他の一連の免疫細胞によるサイトカイン生成のコントロールをして免疫システムの正常化(B細胞やヘルパーT細胞とは異なる機能を担いながらも、それらの免疫細胞と協調して免疫系全体の調和を保つ)を図っています。
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(参考資料)
1)「腸内細菌由来物質による免疫恒常性維持機構の発見」(科研費NEWS 2015年度 VOL.1 P17)