TMR中の粗飼料の品質変化に対処するには?

私が泌乳牛の給与試験に携わっている頃、馴致期間が設けられず、すぐに新メニュー(新原料/試験飼料)に切り替わることがありました。その場合、乾物摂取量、乳量、乳成分が大きく変動する場合とほとんど変わらない場合があったことを覚えています。
現場の農家さんの給与ではできるだけ乾物摂取量やルーメン発酵が安定し、乳生産に影響を与えてほしくないわけです。しかし流通している乾草や濃厚飼料の価格、品質、安定供給等の理由から変更せざるを得ない状況も一方であります。

本TMRセンターで使用している流通乾草は設立当初より数種類の草種の違う乾草を使用しています。また飼料分析もその牧草コンテナが変わる度に飼料成分分析を実施してきました。数種類の乾草を使うことや飼料分析を把握することにより、飼料成分が大きく変わるものが出てきても、他の濃厚飼料の配合割合を変えることなく、乾草内の給与量を変えることで粗飼料全体の栄養成分や物理性をほぼ一定にすることを可能にしています。

乾草と濃厚飼料ではルーメンでの通過スピードが大きく異なるため、TMRの飼料設計としてはやはり乾草の成分変動を濃厚飼料の変更まで持っていきたくないところがあります。
本TMRセンターではこの方式を一貫してやってきました。

私の学生時代に比較し、国内外の「飼養標準」の栄養素の分析は詳細になり、設計の精度も上がっています。その中ではっきりしない(定量化できない)ものに飼料の食いつき「嗜好性」というものがあります。TMRの切り替えで数日乾物摂取量が1~2㎏減った場合、頭数が多くなるほど経営的損出額は多くなります。

さらに個人的な経験、見解にすぎませんが、乾物摂取量の変動が大きく、長く続けば受胎前後の牛には悪影響があると捉えています。

このような状況を少しでも少なくするため、本TMRセンターでは、嗜好性に問題がありそうな乾草については、実際に利用農家さんに単体で給与し、その食いつきを考慮して給与を決めています。

粗飼料の栄養価、嗜好性が安定しているということは、TMRの設計上重要な要件の一つであり、経済的に価値が高いものと判断しています。これは栄養的な尺度では測れない価値であり、軽視する方もおられます。しかし、この価値が少なくなるには、牛群の乾物摂取量や乳生産をもっとコントロールできる飼料設計が出てくる必要があります。

次回は本TMRセンターの利用農家さんの多くの方が組み込んでいるコーンサイレージの品質について整理したいと思います。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。