飼料設計モデルの見逃されていること(5)「生体中のビタミン、ミネラルの輸送蛋白を知る」

乳牛においてビタミン、ミネラルが不足すると種々の障害、欠乏症が出てきます。その中でビタミン、ミネラルの摂取が不足していなくても、それ以外の条件で不足の症状が出ることが少なからずある事実を見逃している方がいらっしゃいます。 例えば、途上国で見られる人のビタミンA欠乏による夜盲症は、ビタミンAを治療のために投与しても改善しない場合があることが知られています。それはなぜでしょう?

当然、カロチン(プロビタミンA)やビタミンAの摂取量が必要量より少なければ。ビタミンA欠乏の症状は出てきます。しかし、もう一つの条件として、ビタミンA結合蛋白(retinol -binding protein)がその輸送体として、ビタミンAと結合しなければ、血流を通して組織に移動し、細胞においてビタミンAが活性化しなければ、ビタミンA欠乏症が生じます。それは人も牛も同様です。 つまり、エネルギーや蛋白の不足等でこの輸送蛋白の合成が低くなれば、肝臓中にビタミンAが十分蓄えられていても、ビタミンA欠乏症は起きてきます。 このように一般にビタミンやミネラルの多くは、輸送体蛋白と結合し、作用してきます。

私の乳牛の飼料設計は、ビタミンやミネラルの給与の目安は、日本飼養標準やNRC飼養標準です。 一般に暑熱や分娩前後の代謝ストレスが高まる時期にビタミンやミネラルの要求量は増加します。そのため要求量以上の投与は薦められています。これは理に適った対処法です。しかし、見逃してならないのは、エネルギー、蛋白、脂肪が不足していれば、ビタミン、ミネラルを要求量の2倍以上、過剰に給与しても期待した効果が表れるか疑問が沸いてきます。

高泌乳において、エネルギーや3大栄養素を充足させるのと比較し、ビタミンやミネラルを充足させる、あるいは要求量の2倍以上を給与するのは、コスト的にも給与的にもそんなにむずかしいことではありません。しかし、私は前述の輸送蛋白が不足していたら、本当に効果を示すかは不安になります。 特に脂溶性ビタミンであるA、Eについては乳牛の血中レベルを測定した研究報告は少なくありません。確かに分娩前後や乳房炎時にビタミンAやEは低下します。 しかし、この事実だけを持って要求量以上の過剰のビタミン剤を給与して効果が表れると捉えていいのでしょうか。

人や牛などの哺乳動物は進化の過程で不足に対応するためか、肝臓中に「ビタミンA貯蔵細胞(肝星細胞/伊藤細胞)」と称する特異的にビタミンAを蓄積する細胞があります。そのため、肝臓中に蓄積が十分あれば、他のビタミンと違い短期間で不足することはないのです。

私の乳牛の飼料設計で頭を悩ますのは、やはり代謝の中心であるエネルギー(ATP)の充足です。これに力を入れなければ、ビタミンやミネラルの不足の兆候は改善できないと捉えている一人です。

(参考文献) https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/89/5-6/89_KJ00009983189/_pdf

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。