なぜフレッシュTMRに「麦芽糖化粕」サイレージ?

前報で本TMRセンターが使用しているサイレージを「ビール粕」サイレージと称しましたが、正確にはビールの原料と同じ、麦芽を原料としてウイスキーを製造する際に産出される麦芽糖化粕です。商品名は「ビアレージ」です。

本TMRセンターは「ビアレージ」の他は皆、乾燥した飼料です。本TMRセンターで使用している「ビアレージ」は水分が70%前後です。これを当TMRに組み込むと全体の水分はTMRの種類により28%前後になります。このようなTMRは密封しなければ、気温に左右されますが、一般には数日で発熱が起こるでしょう。

なぜ、このようなTMRの2次発酵の原因となる原料を組み込んだのでしょうか?

それに対する回答は以下のとおりです。

1.乾物当たりの単価が飼料成分(栄養素)から判断し、割安である。
2.水分の高い本品を組み入れることで選び食いが少なくなると判断した。
3.「ビアレージ」はカリウムが低く、バイパス蛋白も高い傾向があり、泌乳牛、乾乳牛と も使える原料である。
4.但し、利用農家さんが給与前に2次発酵すれば上記の優位性以上の損出になるため、当時のTMR製造体制では夏季でも製造後7日以上は発熱しないことが必要であった。調査の結果問題ないことを確認し、またこのようなフレッシュTMRをすでに5年以上製造している。

ここで、重要なことは本TMRセンターが実際のTMRの配合原料の中で発熱時間を調査したことです。この調査によって意外にも発熱までの期間が長かったことが確認できました。ここからはあくまで私の推定ですが、以下の条件があったのではと捉えています。

①加水による水分増加ではなく、酢酸等の有機酸を多く含んだ麦芽糖化粕サイレージであったことにより発熱が遅れた。
②本TMR中に吸湿性が高く、しかし酸度が高い(変敗しにくい)という、一般の濃厚飼料原料ではあまりない飼料特性として持っているDDGSが8%程度含まれている。

乾燥でないフレッシュTMRの2次発酵の要因は、水分含量、外気温、密度(酸素含量)、酸度、それに含まれる菌種/菌数等、多数あり、その相互、交互作用より決まると判断されます。そのため、実際にそのTMRの配合内容を想定し、発熱の有無の調査、試験をするしかないのです。

今回紹介したビール粕(麦芽糖化粕)は1980年代、ビールの消費が増え、生のビール粕が大量に産出し産業廃棄物になった時期もありました。現在は脱水、乳酸発酵の技術やビール粕(麦芽糖化粕)の飼料特性が研究され、その当時と比較すると各段の付加価値の高い飼料となっています。                       ビール粕の飼料特性は後日整理したいと思いますが、ビール粕はビール製造のどういう製造過程で産出されるのでしょうか?

ビール粕を醸造した後の発酵副産物と勘違いする方もおられます。実際は大麦を発芽させ麦芽を主原料として粉砕しその酵素で糖化させ、それを抽出した後の麦芽糖化粕(未発酵)です。大麦という穀類から主に澱粉を除いた飼料と捉えることができます。

当TMRセンターではこの麦芽糖化粕サイレージ(「ビアレージ」)を5年以上利用してきたわけですが、新型コロウイルス流行により、ビールの消費が落ち、ビール粕(麦芽糖化粕)の産出が少なくなった影響のため、現状の使用量を確保できない厳しい状況になっています。

次回からは当TMRセンターが製造上こだわっている「品質の安定」に焦点をあて、紹介していきます。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。