過去、乳牛飼料の開発に従事していた時、必須脂肪酸であるリノール酸(ω6)とα-リノレン酸(ω3)が繁殖に関わることに関心を持ちました。ただし、現在も乳牛において受胎に必要な両者の最適比率は確立していないようです。
以前ブログで紹介したように、αリノレン酸が多いアマニ給与により妊娠損失が低下した研究報告¹⁾を知り、私も給与試験に関わりました。アマニ種子に含まれるアマニリグナンというポリフェノールのためか、逆に対照区より受胎に重要な血中コレステロー値が低値を示す結果になりました。
そんな結果を確認した中、牛の飼料である牧草もチモシー等の放牧草や出穂前後の早刈りの牧草では、コーン子実と同様、油脂含量が4%以上あることが多く、牛への脂肪供給源として主要な飼料となり得ると捉えています。さらにその脂肪分画を文献2)で調べたところ、主要な脂肪酸はαリノレン酸であることを知った次第です。 その実測例2)では、チモシーの出穂始めのα-リノレン酸は乾物中0.69~1.03%(窒素施肥条件による)でした。イタリアンライグラスでも同様に総脂肪酸量の概ね50%以上を占めます。 チモシーを乾物5kg給与すると、前記の出穂始めの生草の分析値をそのまま当てはめた計算では、α-リノレン酸は約34~52g/日となります。しかし乾草では乾燥・雨濡れによる損失があり、実際の摂取量はこれより低くなる場合があることに留意する必要があります。
それに対して、高泌乳牛の粗飼料源として刈り遅れの牧草やストロー類を多く使うと、茎葉由来のα-リノレン酸供給量が減る傾向があります。またトウモロコシ子実や大豆粕主体の濃厚飼料はリノール酸に偏りやすく、飼料全体の脂肪酸構成も変わります。ただし、乳牛のα-リノレン酸要求量は未確立であり、「欠乏」とまでは判定できません。
前述の研究¹⁾では、アマニ給与群の妊娠損失率は9.8%、ヒマワリ種子給与群では27.3%でした。ただし、これは特定の飼料・試験条件での結果であり、牧草由来α-リノレン酸の増量だけで受胎率が改善することを証明したものではありません。ルーメン内の水素添加によって、小腸に届く量も変わります。
今後、牧草の脂肪酸含量と繁殖成績の研究が進めば、「良質粗飼料」の評価項目にα-リノレン酸含量が加わる日が来るのではないかと、個人的には判断しています。
(参考文献)
1)Ambrose, D. J. et al. (2006). Lower pregnancy losses in lactating dairy cows fed a diet enriched in α-linolenic acid. Journal of Dairy Science 89:3066–3074.
DOI:10.3168/jds.S0022-0302(06)72581-4
2)Boufaïed, H. et al. Fatty acids in forages. I. Factors affecting concentrations. Canadian Journal of Animal Science(チモシー生育段階・窒素施肥別のC18:3 実測値、Table 1).

