牛の代謝・栄養・飼料等のトピックス(25)「発酵と酸化還元電位の関係は?」

これまでのブログの中で、ルーメン、TMR、サイレージ、堆肥などの発酵過程におけるpHについて触れることが多かったと思います。pHはこれらの発酵状態を把握するための有力な指標であり、測定もそれほど難しくありません。
最近、発酵状態を評価するうえで、もう一つ注目している指標として酸化還元電位(ORP:Oxidation-Reduction Potential)があります。

牛の代謝を考えるうえで「酸化ストレス」は、免疫機能や神経系に大きな影響を与えることが知られています。これを抑制する因子として、抗酸化酵素やビタミンC、ポリフェノールなどの抗酸化物質があります。これらは電子を供与する還元作用を持ち、抗酸化的な環境では一般にORPは低い値(還元的)を示します。

ルーメン内の発酵とORPの関係の一例を挙げれば、牛への濃厚飼料多給は、ルーメン内の乳酸生成菌の増殖を高めます。これらの一部の乳酸菌は酸素の存在下で嫌気性発酵の効率上げます。しかし、酵母(生菌)を牛に給与すれば、その酵母は酸素を利用し、ルーメンの状態をより嫌気的にして、つまりルーメン内のORPを下げ、乳酸利用菌や繊維分解菌の増殖を高めることになります。

糞尿処理の観点から見ても、堆肥、スラリー、尿、堆肥化過程においては、好気性菌・嫌気性菌・通性嫌気性菌などからなる微生物相が、ORPの変動に応じて変化します。これらの微生物群は、ORPを含む環境条件の変化に応じて構成を変えながら、動的な平衡状態を保っているといえます。

サイレージ発酵についても同様です。例えば、酪酸菌は偏性嫌気性菌に分類されます。実際のサイレージ中では乳酸菌など他の微生物と共存しています。完全密封でない条件下においても、乳酸菌の活動により残存酸素が消費され、ORPが低下することで嫌気的環境が形成されます。ただし、酪酸発酵の成立には、ORPの低下だけでなく、水分含量、可溶性糖の不足、pH低下の遅延などの要因が関与しており、これを防ぐことで乳酸菌主体の発酵は可能です。

前述に示したとおりサイレージ、堆肥等の発酵物のORPはpHと同様、測定はフィールドワークで実施できるものあり、機器もpHメータ並みの価格です。ただ、pH測定とは異なり、現場サイドでのORPの測定事例は少なく、今後より多くの報告を期待したいところです。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。