今年8月からの気温の上昇によりどの泌乳牛群においても乾物摂取量は落ちているでしょう。そして1頭当たりの乳量も下がっていることでしょう。
自分の牛群の産次、体重、泌乳日数、給与飼料の成分、給与量等、飼料計算に当てはめれば。その乾物1㎏当たりの増減により乳量がどのくらいなるかは、数値として出すことは可能です。しかし実際の自分の牛群に当てはまるか、不安なところがあります。
前報でお話しした、「発情発見の強化」や「周産期のレベルアップ」により分娩間隔の短縮や消極的淘汰が減少した場合、飼料要求率は低くなり、0.5㎏程度の乾物摂取量の自然増で1㎏程度の乳量増は一般には計算通り可能です。
それでは、単純に飼料メニューの変更や給与方法による乾物摂取量の増加では、同じような乳量増は可能でしょうか?
小生、長年に渡り、泌乳牛を用いた給与試験(新原料の飼料特性や飼料価値を判断するため、2重反転法等の個体差を無くした、対照区を設けた試験方法が多い)に携さわりました。
結果は対照区と有意に差があった試験は残念ながら多くありませんでした。一方、これらの試験を通して確実に言えたことは、各給与試験とも用いた供試牛の分娩後月数が短いほど飼料要求率が低い傾向にあったことです。
仮に前報の牛群モデル例(同産次、同泌乳曲線、同飼料メニュー(同TMR濃度))で試算してみると、泌乳牛群の平均泌乳日数が210日と230日では、同じ乾物20㎏摂取しても、産出乳量は1㎏以上の差が出てきます。またそれぞれ乾物摂取量1㎏増加させてもその乳量の伸びは違ってきます。
ただ、実際の過去の公的な研究機関等での泌乳牛の給与試験においては、多くは栄養成分、分娩後日数、産次を揃えた中で試験が実施されます。試験区が対照区に比較し、乾物摂取量1㎏~2㎏高い値が出ていても、その倍の乳量差ほどないのがほとんどです。
また、TMRセンターからの供給によりTMR給与を始めると、これまでの粗飼料と濃厚飼料による分離給与に比較し、1頭当たりの乳量が平均2㎏以上伸びたという報告例は承知するところです。しかし一般の酪農さんの牛群であるため、乾物摂取量何㎏増えて、乳量何㎏増加したかを正確には捉えきれないところがあります。
標準的な乾物摂取量をしている牛群に給与飼料の消化率を上げることなく、その摂取量を増すことができた場合、泌乳前半のエネルギー充足は高まり、受胎にプラスになり、また乳量アップにつながることが多くメリットはあります。注意すべきは泌乳後半の牛については、乳量は増加するも飼料効率が下がり、余剰エネルギーが体脂肪の蓄積に回り、高血糖が続き、分娩後のリスクが高まることです。
同じ飼料メニューにおいて、基準程度の乾物摂取をしている牛群ではさらに乾物摂取量を上げることが容易でない経験をしているのは私だけではないと思います。
この事実を踏まえた場合、何とか乾物当たりの飼料単価を上げずに、飼料メニュー(TMR)における繊維の消化率を上げる方策が重要になってきます。給与飼料の繊維の消化率を上げることができれば、乾物摂取量が増加し、乳量もアップすることは一般に知られるところです。
次回は飼料メニューにおいて、繊維の消化率を上げる方策について考えていきたいと思います。
分娩後の飼料効率の推移
A牧場における2000年~2007年に分娩した泌乳牛の各乾摂取量と乳量より算出 飼料効率の算出:SCM(全固形補正乳量)/乾物摂取量 (SCM:12.3×乳脂量+6.56×SNF量-0.0752×乳量) 黄色の線は初産牛、青色の線は2産以上の飼料効率の回帰式曲線を示す