牛の飼料・サイレージで見逃されている点(6)「メチル基とS基を多く含む食品副産物を探しては」(ⅰ)

今回のタイトルを選んだ理由として、私が研究開発に従事始めた時から一貫して、牛の飼料の中で牛の「代謝」をよくする、改善するものはないかと探す中で持ったテーマです。
私が最初に目を付けたのは、大豆に含まれる「レシチン」でした。当時すでにレシチンは強肝作用が知らており、1990年初めに主に過肥を対象とした乾乳用配合飼料に一時入れていました。

その後、海外において脂肪肝等に効果が認められた「バイパスコリン」が日本に紹介され、私もその効果の有無の確認に従事、調査しました。「バイパスコリン」は現在でも脂肪肝等の肝機能改善に使われています。

アミノ酸の中でメチオニンは高泌乳にとって不足するアミノ酸であり、薬理的には強肝作用があります。

また、糖蜜等には「ベタイン」という物質が含まれています。ベタインも同様に強肝作用が知られており、幾つかの市販の強肝商材にもベタインが含まれています。
この中で驚くなかれ、何れもメチル基(-CH3基)を分子内にもっています。さらに調べていくと、動物用医薬品として知られる「フジックス」という肝機能改善に処方される医薬品には、メチル基が分子内にそれらより多い4つ持っていることがわかりました。

なぜメチル基を持った物質の中に強肝作用があるのでしょうか。
最近、医学分野では代謝における「メチレーション」が注目されています。詳しいことは、別添の記事等を参考いただくとして、私は、メチル基を不足させないことで生体内の遺伝子発現が正常化され、肝細胞等の細胞の代謝もうまくいくと捉えています。

もう一つ注目しているものに分子内のS(イオウ)基、SH基があります。
この代表が前述のメチル基の説明にも出てきたメチオニンです。この他のアミノ酸として、シスチン、システイン、グルタチオンもこのS基やSH基を持ち、生体内の抗酸化酵素等の構成要素や前述のメチレーション代謝に関わってきます。
牛の肝疾患、解毒等に医薬品として使かわれている「チオラ」(チオプロニン)にもSH基が含まれています。

養牛農家さんを悩ます、長期不受胎や慢性の乳房炎等の対応策として、私は慢性炎症の原因の追究やそれを抑える、治癒させる抗酸化作用やメチレーションの正常化の処方が重要と考える一人です。

今回示したような代謝に関わる分子基を持つ生体物質を食から取れば、慢性炎症や免疫の低下予防に少しは役立つと捉えています。
次回では、具体的にどのような飼料、機能性商材を牛に与えれば、この生体物質の供給が多くなるかを整理したいと思います。

冒頭の図は、「フジックス」(イソプロチオラン)の構造式を示しています。メチル基の他、S基も持っています。          尚、イソプロチオランは作物分野では、農薬として使われ、稲のいもち病を防ぐ殺菌剤等として使われます。その原因となる糸状菌のメチレーションを抑制して、増殖を防ぐ一方、稲自体には別添の記事に示めされるように、生理活性物質様の働きをして、根の伸長や光合成能増加があります。

(参考記事)
https://orthomolecularmedicine.tokyo/rootcause/blood-methylation/

「農薬を変えた農薬~開発ものがたり・日本の創薬の力~(9)イソプロチオラン 殺菌剤から昆虫成長制御剤,植物成長調節剤,そして環境ストレス耐性付与剤への新たな展開
:「植物防疫」(第71巻第2号(2017年))

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。