生乳と代用乳の違いは?

一般にほとんどの酪農家さんは出生直後に初乳を飲ませた後は生乳ではなく代用乳を飲ませています。その理由は価格が安いからです。
それでは生乳と一般の代用乳の栄養的な大きな違いは何でしょうか。細かく整理すれば多数ありますが、増体、発育に大きく影響するのは、それに含まれる脂肪の消化率と捉えています。
生乳中の脂肪分はその消化のためにその構成分や物理・化学性は巧妙にできており、人工物である代用乳の脂肪分の消化性をコストも配慮した中で同等に持っていくには簡単ではないのです。
代用乳の脂肪分は主に植物油脂が主成分です。それにその消化をよくするために乳化剤が添加されており、また子牛に飲ますとき時の溶解性、分散性も高めるための製造方法も永年研究開発が進められています。しかし、生乳と同じ程度の消化性を示す代用乳は現在でもないのではと感じています。

代用乳の消化性、性能を決める上で重要な成分として蛋白分があります。しかし脂肪分と異なり、植物原料はほとんど使われず、乳由来の蛋白源が使われています。それは多くの研究報告が示しているとおり、同じ蛋白量を摂取させた時に増体や飼料効率が落ちるからです。蛋白源を乳以来にしているため、生乳との違いは脂肪分よりは少ないのかもしれません。

現在、哺育時の良好な発育は、その牛の分娩後の高乳生産に繋がっているという研究報告等から、乳牛においても代用乳をこれまでより多給する方式が普及し出しています。この代用乳の三大栄養素(蛋白、脂肪、炭水化物)の構成は、生乳とは異なり、蛋白分の割合が多くなっています。多給する場合の不消化によるリスクは、前述の現在の代用乳の製造法では、蛋白を上げる処方箋がベターと判断されます。この例はこのように生乳と成分が異なっていても、生乳と同じような増体、発育に近づけることができた研究成果の一つです。

私が感じる最近のもう一つの研究成果として、前述の脂肪分の利用率改善を生乳の脂肪酸組成に拘ることなく、中鎖脂肪酸の多い原料を利用したことにあります。
生乳中の中鎖脂肪酸は脂肪分中8%程度です。体内において中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸に比較し摂取からエネルギーになるまでの時間が短く、生乳の割合以上に組み込むことで発育に良い影響を与えています。

生乳と代用乳を比較した場合に感ずる違いの一つに液状の性質があります。生乳は乳蛋白、乳脂肪、乳糖、ミネラル、ビタミン等が均一混ざっています。人工物である代用乳はそれに近づけるため種々の工夫がされていますが、その性状として「だま」が多かったり、脂肪分が分離するようでは、子牛の消化器に入っても消化はよくないのではと捉えてしまいます。生乳の乳化は非常に巧妙にできているのです。
現在の代用乳の性能を上げるには、生乳の構成成分、物理・化学性を探求すると伴に、一方でそれに拘ることなく、違った視点で代用乳の性能を上げる研究姿勢も必要でしょう。

以上、現在市販されている代用乳を生乳の性状、構成との比較において整理してみました。次回は酪農家さんが代用乳を選定する際のポイントや人工乳との組み合わせについて説明したいと思います。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。