牛の代謝、栄養、飼料等でのトピックス(12)「良質乾草を<ワラ・ストロー類+食品副産物>に置き換えたら?」

今でも私の牛における飼料設計の原点の一つになっているのは、1980年代、乳牛の二本立て給与法を考案・普及した獣医師渡辺高俊氏の著書等で知った、「良質乾草」と同じ飼料栄養にするには、「稲わら+ヘイキューブ+ビートパルプ」を組みあわせて給与すればいいという方式でした。
この飼料コンセプトから、ストロー類の粗ごう飼料と食品副産物を混合して何とか「良質粗飼料」の代替にできないかと試験研究に携わっていました。
ここで、「良質粗飼料」(具体例としては嗜好性のよい出穂期ぐらいのチモシー乾草やサイレージ)と「ストロー類+食品副産物」(具体的にはビール粕、豆腐粕、醤油粕等+麦わら等、「混合粗飼料」と仮称)の栄養的違いを整理したいと思います。

「良質粗飼料」は一飼料単品ですが、「混合粗飼料」は2つ以上の飼料を混合し密封貯蔵して発酵飼料にしたものです。
「混合粗飼料」の飼料成分としては、粗蛋白、NDF、有効NDF(飼料の物理的因子量)、NDF消化率を類似させたものです。
この「混合粗飼料」が「良質粗飼料」になる前提は、嗜好性がよく牛が選び食いをせず、均一に採食するという事を担保される必要があります。
ストロー類に絡まる食品副産物だけを食べ、ストロー類を残してしまえば、良質粗飼料の代替にはなりません。
また、実際、この二つが同じ飼料成分、栄養価であるかは、乾物給与量を同じにして、泌乳牛への給与を実施し、乳生産、乳成分、血液成分等に違いがないかを確認できれば安心です。
「混合粗飼料」で気になるのは、ルーメンマットの形成に与える影響です。「混合粗飼料」の飼料粒度分布が「良質粗飼料」と大きく違い、反芻刺激や繊維の消化率の低下を懸念される方もおられるでしょう。

しかし、厳密な試験ではありませんが、計算上2つの飼料の栄養価、粗飼料因子量をほぼ同じにすれば、私が携わった給与試験等では、例え前述のような「混合粗飼料」を組み込んでも多くは想定通りの乳生産、乳成分でした1)
この結果を裏付けるように、下記の副産物由来の非粗飼料繊維源を多給したルーメンマットの形成に関する研究報告2)から判断する限り、適正な量の長物粗飼料を併用すれば、ルーメンマットの物理的構造を軟弱化するリスクは少ないと判断しています。
「混合粗飼料」の選び食いを少なくする方法としては、ストロー類の切断長を1~2㎝程にするとともにジュース類粕等の糖含量の高い飼料を若干組み込んで乳酸、アルコール発酵を促進させ、ストロー類に有機酸やアルコールを染み込ませて嗜好性を改善するのも一法です。

1)「粕類混合飼料サイレージの開発と給与効果」(Grassland Science 48 (1):69−72 (2002))
2)「食品製造副産物等に由来する非粗飼料繊維源多給が泌乳牛の乳生産、 咀嚼活動およびルーメンマット性状に及ぼす影響」(北畜草会報 3:27-36, 2015)

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。